勇者を見た / 「占い師 琴葉野彩華は占わない」単行本化のおしらせ
朝の通勤タイムの話なんですけど。
駅に向かう途中で、明らかに彼女の家にお泊りした的な会話をしているカップルがいたんですよ。この気持ちを世界中に届けたいんだかなんだか知りませんけど、「戸棚のとこにハブラシ追いたじゃん。先週持ってきて昨日の夜使ったやつ」みたいな、彼女じゃなくて若干周囲に説明しちゃってる口調の。
まあ僕も一児の父なので、このくらいじゃあ腹を立てません。スマホで遊んでるドラクエVで何回も同じ階段上ったり下ったりしちゃったときに「操作性!」って叫ぶのと同じくらいの穏やかな気持ですよ。
で、このカップルが改札通ってから別れたわけです。行き先が逆方向なんでしょう。僕はゆっくり改札を通りながら、自分と方向が同じ彼氏が階段を上るのを見ていました。すると突然、彼がくるりと振り返ってダッシュし始めたわけです。トイレのほうに。
トイレの前を通過するときにちらっと見たら、彼は蒼白の顔で個室に入っていきました。ゲラゲラゲラゲラ! あのイケメン、かっこつけて彼女と別れてからトイレいってやんの。よーしパパスがきみに代わって『この気持ちを世界中に届け』してあげよう。ツイッター起動。「うんこがまんしすぎて顔色マジメトロゴースト」っと。これがほんとの代弁なんつってね! ゲラゲラゲレゲレ!
と、ツイートボタンを押す直前で僕は気づいたわけです。彼が「絶対彼女の家でうんこしない主義」の人である可能性に。
いくらモテるためとはいえ、人間にそんなことができるのでしょうか。「人間に、そんなことができるのか……?」僕は驚きのあまり、思ったこととほぼほぼ同じ言葉を口に出していました。「ほぼほぼ」という言葉を使ってみたかったのです。これみんなよく噛まずに言えますね。
などと思っている間に、彼がすっきり顔で個室から現れました。時間にしておよそ一分。彼はなにごともなかったように、なにごともせず(手も洗わず)、さっそうと階段を上っていきました。
僕はしばらくの間、スマホ画面の中で起き上がったホイミスライムと同じ目で彼を見つめていました。
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まあ彼の表情は勇者って言うより賢者でしたけど。
そんな流れから自称魔女のお話。毎月15日発行のフリーペーパー、月刊ローチケHMVで連載中の『占い師 琴葉野彩華は占わない』が今月号で最終回であります。同時に連載分に書き下ろしエピソードを追加した単行本が2017年に発売決定しました。わーい。
↑一話は無料で試し読みできます。
占い好きの彼女と占いの話をすると煙たそうな顔をする彼氏の、両方に気に入ってもらえたらいいなと思いながら書いたお話です。発売日は2017年とゆったりスケジュールですが、そう遠くはないと思います。原稿はほぼっぼ終わってますしね。噛んでません。これは武者震いです。
単行本の発売が近くなったらまたおしらせしますね。