やりきってしまうわりきれない人

 

 たとえばRPGで。

 

 使う予定はないんだけど、あと3レベルでカンストするキャラがいたらとりあえず上げきってしまうタイプの人っていますよね。カンスト間際ですから時間もそれなりにかかるし、結局上げ切っても倉庫番にしかならないわけですが、それでもやりきってしまう色々とわりきれない人。そう、僕です。

 

 でも、人生を楽しむコツって、こういう小さな達成感を積み重ねていくことだと思うのですよ。時間と引き換えに得た結果は確実に自分の中に残るもの。たとえそれがゲームであっても、過去の自分が達成した成果は次のステップへの自信に繋がるのです。あらやだ。僕ちょっといいこと言っちゃいましたね?(ね?)

 

 まあそんなことはどうでもよくって。この間、玉子焼き作ったんですよ、玉子焼き。

 

 外側はしっかりめの焼き具合で、中はとろっとした半熟卵。そこに包まれているのは鎌倉産のしらすですよ。しらすの塩気と程よく調和したふんわり玉子が絶妙で、香ばしい匂いも相まって、「玉子焼きってこんなおいしかったっけ?」とうなってしまう一品。我ながらとっても上手に焼けたと思います。

 

 さて。こんなにおいしい玉子焼きには調味料なんて何もいらない、と言いたいところですが、しらす入り玉子焼きと言えば大根おろしじゃないですか。熱々の玉子焼きと同時に口に入る大根おろしの冷たさ。そこに二滴だけ垂らした醤油の仕事といったら、まさに画竜に睛を点ずるが如し。ゲームで言えば真・女神転生Ⅲがマニアクスになるみたいなものです。携帯機への移植待ってます。

 

 そんなわけで、僕は大根を探すべく冷蔵庫の野菜室を漁りました。するとラップに包まれた余り大根を発見。何せ秋刀魚の季節ですからね。大根を切らすようなヘマはいたしません。

 

 早速おろし金の上で大根をしょりしょり始めたところ、何やらフルーティな香りがキッチンに漂いました。そうです。新鮮な大根は甘いのです。これはよい大根なのですよ。ほら、切り口の瑞々しさからもそれがうかがえ……っていうか、ちょっと水分ですぎじゃね? 何かおかしいぞ。まさか……ぺろ。

 

「梨だこれー!」

 

 麦茶とめんつゆ、マドレーヌとヨードチンキを浸した脱脂綿、もりそばとエアコンのフィルターなど、今まで数々の勘違いをしてきた僕ですが、実際に手で触れているのに間違えたのは初めてです。今ならブラックボックスに手突っ込んで、「えっと……うちの犬?」って答えて中から便座カバーが出てきても驚きません。

 

 でもまあね、途中で気づいたから大事にはならなかった……と言いたいところですが、僕は思っちゃったわけです。「これ、ありじゃね?」って。だってほら、「なんたらかんたらの木苺ソースがけ」みたいな料理あるじゃないですか。具体性ゼロだけどそういうっぽいのあるじゃないですか。「なら逆にありじゃね?」って思っちゃうじゃないですか。

 

 だから、やりきった。最後まで梨をしょりしょりした。そうして僕は、玉子焼きに梨を添えた。

 

 食べた感想はもちろん「なし」です。