新刊出ます

 

 まったく宣伝できてないんですけど、新刊出ます。

 

この大陸で、フィジカは悪い薬師だった (電撃文庫)

この大陸で、フィジカは悪い薬師だった (電撃文庫)

 

 

 タイトルは『この大陸で、フィジカは悪い薬師だった』。人を癒やさず幻獣(モンスター)を癒やす反社会的な女の子と、彼女をとっつかまえようとして命を救われちゃった少年がお送りする、ファンタジー版動物記です。

 

 発売は明日土曜日。よろしくお願いします!

 

逆さ文字と鏡文字は違う、までがオチ

 

「逆さ文字」ってあるじゃないですか。

 

 対面した相手がこちらに見えるよう、逆側から文字を書いてくれるあれ。座って話をする携帯ショップみたいなお店で店員さんが披露してくれる小粋なスキルです。

 

 あれって本来ならば、

 

 1.客が読んでいる用紙をいったん自分に向けて
 2.「A」と書き込んで
 3.それをまた客の向きに変えて渡す

 

という三つのステップを、「∀」と書くだけで二手間省いてるわけで。作法の良し悪しはともかく、見た目のかっこよさだけでなく意外と実用性がある。

 

 たとえばちょっとしたパーティーに招かれたときも、2ステップキャンセルサインで受付の渋滞を緩和できるし、ちょっとした爆弾を解除しようとして「爆発物処理申請書をしろ!」とおカタイ上司に書類をつきつけられたときにも、素早くサインしてタイマーを残り2秒で停止できる。エンタメ的に絵面は微妙になるけど、「いつでもちょっと余裕のある男」として僕の評判はうなぎのぼり。これ。

 

 というわけで早速練習してみましょう。まずは手元の紙に逆側から「一二三」。

 

 書けちゃった。まあシンメトリーは楽だよね。ならばと今度は「加藤」と書いてみる。すると画数増えてややこしいわりにはちゃんと書けてる。あれ? 僕ってば才能あっちゃった系?

 

 なんて思ったらひらがながきつい。「あ」「ぬ」「ね」みたいないかにも頭がこんがらがりそうなものはともかく、「し」とか「く」みたいなシンプルなものも逆になってたり。これは練習が必要だなあ。

 

 俄然失せるやる気。でも思い返してみればリバースライティングの使い手はひらがなを書いてなかった気がする。主に重要箇所に波線を引いたり、「一ヶ月」みたいな簡単な文字を書くだけだったり。

 

 あ、そうか。このスキルは将棋と一緒なんだ。決まった文字しか使わないから、逆さの読み書きにもスムースに対応できる。そもそも楽をするためのスキルなんだから、練習する必要なんてなかったんだ。オーケー、これに気づいた時点で僕もイケメンの仲間入りだぜ!

 

 などと一人ニヤニヤしながら病院へ。出産費用の精算諸々をするのです。

 

 窓口であれこれ話を聞いていると、担当者のイケメンがリバースライティングの使い手だった。ふふん。僕は知ってるぜ。きみのイケメンがこけおどしだってことをね!

 

 むふーと勝ち誇っていたら、イケメンが怪訝な表情をしつつ「こちらの金額を返金させていただきます」と電卓を叩いた。

 

 僕に画面を向けたまま、向こう側から手を伸ばして。

 

 彼は本物のイケメンだった。きっと血の滲むような努力でリバース系スキルの熟練度を上げたのだろう。そうして医療事務の仕事をしたり、爆弾魔から街を守っているんだ。だからこそ彼はイケメン――むしろikemenなんだ。

 

 今の僕はuǝɯǝʞıでしかない。まずは鏡を買うことからはじめよう。 

 

育児仕事日記1

 

 自分用メモから抜粋。

 

某日

陣痛促進には焼き肉がいいという都市伝説。
実際に効いたのは焼きうどんだった。しかもニンニク入り。
歯を磨いて深夜のタクシー。車椅子押して救急病棟。
しかし分娩準備室に入ってから12時間うんともすんとも。
暇なのでポメラで原稿。
原稿。
原稿。
まだ生まれない。


いったん帰宅してあんこの世話。
げに不満そうな顔。忘れてたわけじゃないってば。


再び病院に戻ると「遅いですよ!」と看護師さん。
いつの間にやら分娩台。間が悪いのは僕じゃない。
あわあわとジョウガサキさんをうちわであおぐ。
ひっひっふー。ひっひっふー。


「なんか出た!」


あんまりないきみ(本当に言った)とともに聞こえる産声2400グラム。
男児、というかハダカデバネズミだ。そう思いつつも涙。
生命の神秘を目撃したこと。あるいは父になった感慨。
そういうのではなく、単純にがんばった奥さんを見てのスポーツ的感動だと思う。

 

病院通い

我が子へ会いに、というかジョウガサキさんの着替えを届けに病室へ日参。
母も産褥でへろへろだけれど、締め切り前の父もでろでろ。
明るい産婦人科にテラーナイトのごとくにしんどい空気を撒き散らす。

しかし子が小さい。あまりに弱々しくて抱くたびに不安がよぎる。

 

退院

両親タクシーでお迎え。新生児用チャイルドシートに手こずる。
親父は初孫を抱くことをやんわり拒否した。
その気持ちはちょっとわかる。まだ「よその子」なんだろな。

子の顔を見ながら仕事できるようにノートPC購入。
環境構築で一晩費やす。忍び寄る締め切り。

 

出生10日前後

子が泣く。あやす。やっと寝たぜふうやれやれ。
一行書く。おぎゃー。父もシメキリガーと泣く。

子育てなめてた。何もしてないのに時間が音速で過ぎていく。
ここ数日まともに書けてない。資料も読めない。
けど子は抱かないと泣き止まない。

ゆりかごで両手が塞がっているので録画アニメ消化するしかないわー。ほんとは仕事したいんだけどなー。ギャン子かわいい*1
気づけば三日で25話。腕パンパン。なんでこの子寝ないの。

 

生後2週間

区役所へ出生届の提出。窓口の人によくしていただく。
最近「お役所仕事」という言葉を聞かなくなったなあ。

出産祝いへのお礼メール。
「かわいいでしょう」との問いには一応「はい」と答える。が、冷静に見ると、組み分け帽子かぶった瞬間『スリザリン!』って言われる顔だよなあと思う。良し悪しはともかくこれも欲目か。

インタビューの原稿チェックして戻し。即座に返信が来る27時。
「子育て大変でしょうに」という気遣いはありがたいけれど、僕が自分から進捗を報告するときは100パー盛ってますごめんなさい。

 

祝3000グラム

ベビーベッドのせいで部屋が狭い。
ジョウガサキさんと肩がぶつかる。まさかのフィジカル当たり負け。
週一で高熱出すような貧弱さんなのに……母は強し。

子もようやく体重が人並みになって一安心。フィジカル大事。超大事。

原稿は今日こそなんとかしないとまずい、というところに電話。
「そろそろ確定申告が」
すっかり忘れてた。涙目で右往左往して会計事務所に書類送付。
マジ締め切りやばい。急げ。

片手で子を抱きながらノーパソオープン。

「Windows10……? インストールまで数時間かかります……?」

いったい僕が何をしたというの。

 

仕事は翼をいっぱい授けてもらって乗り切った。
我が名は大天使コトナキエル。

 

 

*1:でも買ったプラモはウイニングガンダム。余談ですけどTVCMが『ガンダムブレイカー2』でした。もう3出てるのに